「じゃあ、空を飛んでいるわけだ」 映画を見に行った。「済州島四・三事件ハラン」(ハ・ミョンミ監督/脚本)だ。四・三事件をそれほど詳しく知っているわけではないが、この作品は見たいと思っていた。ハン・ガンの『別れを告げない』を読んだせいかもしれ…
「生まれた家に何歳まで住んだか? 分からないな」 モトさんは入院してすぐに集中治療室に入った。医者の説明では2,3日後には一般病棟に移るだろうとのことだった。ところがその日を過ぎても何の説明もない。6日目ごろに看護師に尋ねてみると、「入院から1…
「忙しいなら帰っていいよ」 4月13日 月曜日 モトさんが入院してちょうど1週間。入院以来、私は毎日面会に行った。何故モトさんのために、こんなに時間を費やすのか。その理由を考えてみた。 1.集中治療室にいるためにモトさんは携帯電話が使えず、私に連…
「今日はじめて意識が戻ったよ」 4月12日 日曜日 昨日は土曜日で好天。桜が花盛りでしかも季節外れの暑さだったものだから、今日が桜見ごろの最後の日とでも皆が思ったのか。大変な人出だった。今日も同じような快晴で、しかも気温はちょっと低いから昨日よ…
「花を楽しむ気になれない」 6月11日 土曜日 静岡あたりでは30度越え、という暖かい日。 朝から時ならぬ花見渋滞が起きていて、いつもは静まり返っている家の前の道路に、車が数珠つなぎになっている。駐車場はすぐそこなのだが、家の前のちょっとした空き地…
「そういえばヘンだったなあ」 4月8日 水曜日 朝のうちに短い原稿書きの用事を終え、手早く昼食も済ませて、「有料老人ホームひまわり」に向かう。モトさんが常用している薬を預けてあるので、それを入院中の医療センターに届けなければならない。泌尿器科か…
軽い脳梗塞です 2026年4月6日 月曜日 季節はずれの暖かい日だった。 月2回の「認知症家族の会」を終えて帰宅した。いまごろになってやっと分かってきたが、認知症といってもその症状はほんとうにさまざまだ。そのことに、医者さえも認識は薄いのではないかと…
『韓国・基地村の米軍「慰安婦」ーー国家暴力を問う女性の声』 金貞子/証言、金賢善/編集、セウムト/企画、秦花秀/訳・解説を読んで 本書は、1960年代から1990年代までの数十年間、韓国の米軍基地周辺の基地村で生きた女性の生々しい証言録だ。 日本の従軍慰…
著者、グレース・M・チョウは社会学者だ。ニューヨーク市立大学に提出した博士論文をもとに書いた2冊の本のうちに1冊が本書だ。博士論文は「洋公主(ヤンゴンジュ、『西洋のプリンセス』あるいは『ヤンキーの情婦』の意)と称される人物像について、コリアン…
7月31日木曜日、昼過ぎ3時ごろに松田さんが来た。「義務教育学校、知っていますか?」というパンフレットを持って。2016年から、私が住む人口約4万人の市で学校再編計画が進んでいるのだという。今ある生徒数約500人の中学に、小学校3校を合併して、生徒数90…
隣町の銀行で、用事があっさりとすんだので吉原さんに電話をかけてみた6カ月ぶりくらいだっただろうかあら山脇さん、夫が死んだのそう吉原さんは言ったつい先ごろ、3週間ほど前だそうだ 大変だったわね、気晴らしに出て来ない?と私が言うとうちへ来てくれた…
この小さい町のワイン祭りは 5月半ば過ぎだというのに寒い日だった 娘が家に取って返して持ってきた ブランケットを羽織ったほどだ 冬物なんか、もう仕舞っちゃったものね と娘は言う ふだんは見たこともないワイン醸造所が 20軒も店を出していた 場所は駅を…
森鴎外はほかにも台湾征服戦争の記録を残している。それは『能久親王事蹟』だ。 能久親王(よしひさしんのう)は、北白川宮能久親王。日本の皇族で、北白川宮第2代当主であり陸軍軍人でもあった。続き柄については追うのも面倒くさいが、明治天皇との関係で…
台湾征服戦争 の記録を読む その1 森鴎外著『徂征日記』 先頃、東京に住む知り合いの台湾人Lさんから電話があった。10数年前、私が東京で暮らしていたころは、会合などさまざまな場で会う機会があった。だがその後私が信州で暮らすようになってからは、何か…
5月10日 今日は金曜日だ。朝からしきりにスマホが鳴る。つれあいのモトさんからだ。消音の設定にしてあるのだが、かすかな振動音が私の耳に届いてしまう。スマホを遠くに置いていても、不思議とその小さい音が聞こえてしまう。出るべきか否か何回も何回も思…
いつも朝8時半ごろには電話をかけてくるつれあいのモトさんが、今日は電話をしてこない。頻繁に来る電話を、普段は正直なところ煩わしいと思っているが、来ないとなると少し心配だ。 10時を過ぎたころ、電話が来た。 いつものように「おはよう」と電話に出る…
4月の10日を過ぎたころ、上越市高田へ出かけた。ここには瞽女(ごぜ)ミュージアムというのがあり、前から行きたいと思っていた。だが開館するのは土日だけとあって時間が取れずにいたのだ。 瞽女というのは知られているように、盲目の旅芸人だ。盲人の身で…
*その1「ブンちゃんのパート」の謎 昔のことを調べていると、時折奇跡のようなことが起きる。そこからうまく知りたい事にたどり着ける場合もあれば、またすぐ行き止まってしまうこともあるが。数年前にも面白いことがあった。 江文也(こう・ぶんや)という…
つい先日、テレビのリモコンが見当たらなくなった。 テレビはあまり見ないが、それでもニュースの時間だと気づけばスイッチを入れて、気になっている出来事のその後を見届けようとしたりする。リモコンの決まった置き場はないが、テレビがある部屋の二つのテ…
森達也監督の「福田村事件」が話題を呼んでいる。 1923年に起きた関東大震災から100年目の今年、震災の混乱の中で起きた朝鮮人虐殺問題に、日本はまだきちんと向き合えていない。そんななかで森監督はこの作品で、虐殺に加担してしまった普通の市民を描こう…
もう少しで私は80歳になる。そう気づいたら急に気分が変わった。死が近づいてきた、という実感がわいてきたのだ。生きる時間が短いのを悔やむ気分、やりたいことがまだたくさんあるのに、と焦る気分。いろんな気分がないまぜになっている。 死、ということを…
近ごろ小説を読む機会が減ったような気がする。理由のひとつは新型コロナウィルスの感染拡大に伴って、新たに知らなければならないことが増えたことだ。この感染症からどうやって身を守るか、これによって社会はどう変化していくか。 とりわけ、ほとんど信用…
パトリック・モディアノ著『暗いブティック通り』のことを、最近しきりに考えていた。この本を私は、自分の本棚のお気に入りコーナーに入れていた。10年ほど前にこのコーナーをつくり、老人になって終日家にいるようにでもなったら気の向くままに手に取って…
『馬三家からの手紙』というドキュメンタリー映画がある。 馬三家というのは、中国の馬三家労働教養所のことだ。思想犯が捕らわれて過酷な拷問を受けつつ取り調べられ、強制労働に従事している。映画の監督およびプロデュースはカナダ在住のレオン・リー、20…
新型コロナウィルスのことを考えるのは、もううんざりだ。しばらく考えないでいたい。ウィルス感染の拡大よりももっと腹立たしいのが、政府の対応だ。政府は場当たり的な政策を打ち出すだけで、決定までのプロセスや責任の所在を明らかにしない。誰も政府を…
2020年7月20日、東京では連日新規のコロナウィルス感染者が200人を超え、大阪、名古屋、福岡など都市部の感染者はすべて増加傾向。ピークと言われた4月の感染者数を超えるのは明らかになりつつある。それだけでも気が重いが、政府の無策ぶりがそれに追い打ち…
2020年7月21日、信濃毎日新聞が小諸市でコロナ患者が発生したことを報じた。人口約4万、浅間山麓にあるのどかなこの町でもついに、という感じだ。感染者は20代男性、長野銀行小諸支店勤務で外勤だという。濃厚接触者は家族、同僚2人、外勤の訪問先2人とのこ…
2020年7月13日。4,5日前から東京では感染者が連日200人を超えている。昨夜遅く見たニュースでは、家庭内感染で生後2か月の乳児が感染し、幼稚園や保育園でも集団感染が発生しているという。この近くでも軽井沢で1人感染者が出た。30代男性で東京と軽井沢に…
2020年6月29日。梅雨の合間の貴重な晴天。明日からはまた雨が続くとのこと。散歩したり窓から眺めたりと青空を楽しんだが、ひどく蒸し暑い日でもあった。この日、世界で新型コロナウィルス感染者が1000万人を超え、死者は50万人を超えたという。驚くべき数字…
新型コロナウィルスの流行は、私たちに思わぬ経験をさせ、思わぬものを見せてくれる。たとえば新聞やテレビの報道によれば、クリニックや病院が思わぬ経営危機に見舞われているという。患者が激減しているのだそうだ。コロナに感染するのを恐れて受診を控え…