2017-01-01から1年間の記事一覧

赤い服のカワムラさん

日曜日の夕方、すぐ近くの城址公園へ散歩に行った。歩くつもりで出かけ、その気になったら適当に走る、という気軽なエクササイズだ。 昼間は行楽客でにぎわったであろう公園内も、夕方5時ごろになるともう誰もいない。そうなると我が庭のようなもので、山並…

ぼくが逝った日  ミシェル・ロスダン著

暇に飽かして乱読をしている。というよりも、庭や畑に伸び放題の草木から目をそらしたくて、終日寝転がって本ばかり読んでいるというところだろうか。それにしてもおもしろい本にはなかなかぶつからない。と思っていたのだが、あるのですねえ素晴らしい本と…

絽の浴衣  母の思い出3

この涼しい信州でも、夏は祭りの季節だ。 7月半ばに祇園祭がある。そしていつから始まったのか知らないが、私の子供のころはなかったドカンショ祭りが8月初旬。お盆になると花市があって、これは私が好きな行事のひとつだ。駅前から目抜き通りまでずっと道端…

ゴンちゃんが死んだ

つれあいの記憶の衰えが気になっている。 昨日、居間のすみに置いてある金魚鉢にカエルの死骸が浮かんでいた。仰向けになって四肢をひろげた無様な格好だ。「カエルが死んでいる。こんなところで」と言うと、つれあいが、「あ、僕が入れたんだ」と言ってティ…

映画「セールスマン」アスガー・ファルハディ監督

イランの、たぶんテヘランの話だ。冒頭、アパートが崩壊するから避難しろと呼びかけられ、主人公夫妻や他の住人たちがあわただしく逃げ出す。その間にも窓ガラスや壁に、音を立てて大きなひびが走る。どうやら隣地の建築工事の影響らしいが、急速に進む都市…

「終わりの感覚」ジュリアン・バーンズ著

小説を読み始めるとき、近頃は必ずと言っていいくらい作者の生年や何歳のときに書いた作品かをチェックするようになっている。生まれた年が自分に近ければたいてい読んでみる。書いたときの年齢が自分に近ければ、絶対読んでみる。これはたぶん、私がいまの…

エスペラント語の辞書  母の思い出2

大学に入ったころ、私はかなり不貞腐れていた。「べつに大学など行きたくもないが、これが家を離れるいちばん簡単な道だ」などと、いま思えば鼻つまみの生意気な捨て台詞を吐いて東京へ出て行ったのではなかったか。 そんなふうに始まった大学生活だったが、…

海   母の思い出1

山国信州では、小中学校の夏休みは4週間しかなかった。 それでも強い太陽の光の下で、真夏の暑さは充分に堪能した。だがなぜだろうか、夏の思い出にはカンカン照りの日差しに隈取られた、そこはかとない悲しみがまとわりついている感じもする。 子供たちは…

パソコンが壊れた

すっかり日常のツールになってしまっているパソコン。いちいち意識せずに便利さを享受しているせいで、いざ機能しなくなったときの気分もまた独特だ。なんだか無性に腹が立つ。怒りをぶつける対象が不明のまま腹立ちだけが増幅していく。だいたい、壊れた理…

幹事疲れ

高校を卒業してからもう55年もたつ。 今年も同級会をやることになって、初めて幹事を引き受けた。3年ほど前までは地元を離れて東京周辺で仕事をしていて突発的な用事がしょっちゅうあったので、幹事などはしり込みしていた。同級生も、忙しいだろうからとそ…

風邪と夢

軽い風邪をひいたようで、朝起きるとき喉がざらつき微かな頭痛がする。それで数日のあいだ用心して、朝晩念入りにうがいをし、時折風邪薬を飲んだりした。どうやら発熱にはいたらずにやり過ごしたが、思えば昨年もこの時期に風邪をひいて、熱のために8日間…

アカシヤが倒れた

3日ほど前、晴天続きで畑が悲鳴を上げていたところへ、やっと雨が降った。夜半から夜明けにかけてかなりの雨が降るとの予想だったから、これで畑の作物も生き返ると胸をなでおろした。 朝起きるとまだ雨はしとしとと降り続いていて、庭の草木も生き生きと美…

畑のよろこび

今年の畑はどうしようか。キウリは作らないことにしよう。うちではいつもちょっとみじめなものしかできないし、歩いて10分ほどの駅の無人販売で、毎朝持ち込まれるおいしいキウリが山ほど手に入る。 ナスもやめておこうか。3年ほど前に水ナスというのがとて…

ユリノキを返せ!

花見が終わり、木々の若緑がまぶしく萌え出る季節になった。周囲の緑が日に日に増えて窓の外を見ても、山を見ても、地面を見ても、そして鏡の中までが緑色になっていく。いつもなら心躍る時期のはずなのだが、今年は気が沈みがちだ。というのもこんなことが…

アニータ・ブルックナー著『嘘』

アニータ・ブルックナー著『嘘』を読んだ。 あれ、この人、こんなに面白い作品を書く人だったかしら。前にちらっと読んだのがいつのことなのか覚えてはいないが、あのときは読み取れなかったのかなあ。 主人公はロンドンに住むアナ。中年を過ぎた独り身の女…

友の死

数日前、友人のkさんが1年余り前に亡くなっていたことを知った。享年65歳。勤務先で最後の1年の仕事を始めようとしていた矢先の4月に病が見つかり、3か月ほどの闘病ののちに亡くなったようだ。 知らせてくれたのはkさんと共通の友人のLさん。いま81歳か82…