クコ(枸杞)を摘む

畑の雑草が丈高く茂ってしまったので、朝から畑へ出かけた。この夏は、あまりの暑さに畑仕事はあきらめたような格好だった。だから畑では雑草の穂がゆらゆらと揺れていて、その陰に野菜が隠れているというありさまだ。 それでも野菜は実るのだ。もちろん手を…

景品のベンチを、お返しします

およそ10年前、信州に家を建てるときに、いちばん考えたのは冬の寒さ対策だった。当時住んでいた東京郊外で、時間をみつけてはモデルハウスを見学したり、建築会社の説明を聞いたりしたのも、いまとなっては遠い思い出だ。 埼玉あたりでも床暖房などを導入し…

『軍中楽園』 国家が抱える虚無をあぶりだした力作 

台湾映画『軍中楽園』(2014年 ニウ・チェンザー監督)は、中華民国国軍が軍隊内で運営していた娼館を描いている。スキャンダラスになりがちなテーマに正面から取り組んで、ニウ・チェンザー監督が描こうとしたのは何だったのか。 監督はこの作品について、…

フィリピン  子供と年寄りにやさしい国 

8月初旬に、10日足らずだがフィリピンを旅した。 こんな短期間の旅で、行った先のことを語るなど、おこがましいことだ。そうは思うのだが、7700もの島から成るこの国を島から島へと移動しつつ感じたことがあるので、それを書いてみたい。というのも、ここは…

梅の恵み 夏の哀しみ

台風がらみの雨がつづいて、今日は久しぶりの快晴。午後は暑かったのでずっと本を読んだり手仕事をしたりして過ごした。いま読んでいるのはイアン・マキューアン著『愛の続き』、たしか3回目だ。夕方4時半をまわったころ、少しは体を動かそうとジョギングに…

伏兵あらわる

有機農法の講演会を聞いてから、私は異様なほどよく働いた。早朝2時間余りの畑仕事。小梅を2キロ漬けた。1キロは塩と砂糖を使って、もう1キロは塩だけで。塩は少なめにしたが順調に梅酢が梅を覆ったので、紫蘇を入れて暗い場所にしまい込んだ。そうだ醤…

有機農業、勉強会

上田に行ったときに、偶然に有機農業の講演会のチラシを手に入れた。最近はチラシ類もずいぶん色とりどりだが、このチラシは水色の紙に墨一色、しかも昔懐かしい手書きで楽しいイラストが添えられている。一枚しか残っていないチラシを手に取って、まず講演…

死刑の基準 「永山裁判」が遺したもの

永山則夫のことをもっと知りたくなって、同じ著者の本をもう一冊読んだ。『死刑の基準 「永山裁判」が遺したもの』堀川恵子著だ。 先日取り上げた石川義博医師による精神鑑定書は、永山の生い立ちを精緻に追っていき、彼がなぜ4人を殺して連続射殺魔と呼ばれ…

永山則夫 封印された鑑定記録

年末から年始にかけて「永山則夫 封印された鑑定記録」堀川恵子著を読んだ。自分がうわべしか知らなかったことに気づかされた、ずしりと重い本であった。 永山則夫が4件の連続射殺事件を起こし逮捕されたのは、1968年から69年にかけてのことだという。事件お…

赤い服のカワムラさん

日曜日の夕方、すぐ近くの城址公園へ散歩に行った。歩くつもりで出かけ、その気になったら適当に走る、という気軽なエクササイズだ。 昼間は行楽客でにぎわったであろう公園内も、夕方5時ごろになるともう誰もいない。そうなると我が庭のようなもので、山並…

ぼくが逝った日  ミシェル・ロスダン著

暇に飽かして乱読をしている。というよりも、庭や畑に伸び放題の草木から目をそらしたくて、終日寝転がって本ばかり読んでいるというところだろうか。それにしてもおもしろい本にはなかなかぶつからない。と思っていたのだが、あるのですねえ素晴らしい本と…

絽の浴衣  母の思い出3

この涼しい信州でも、夏は祭りの季節だ。 7月半ばに祇園祭がある。そしていつから始まったのか知らないが、私の子供のころはなかったドカンショ祭りが8月初旬。お盆になると花市があって、これは私が好きな行事のひとつだ。駅前から目抜き通りまでずっと道端…

ゴンちゃんが死んだ

つれあいの記憶の衰えが気になっている。 昨日、居間のすみに置いてある金魚鉢にカエルの死骸が浮かんでいた。仰向けになって四肢をひろげた無様な格好だ。「カエルが死んでいる。こんなところで」と言うと、つれあいが、「あ、僕が入れたんだ」と言ってティ…

映画「セールスマン」アスガー・ファルハディ監督

イランの、たぶんテヘランの話だ。冒頭、アパートが崩壊するから避難しろと呼びかけられ、主人公夫妻や他の住人たちがあわただしく逃げ出す。その間にも窓ガラスや壁に、音を立てて大きなひびが走る。どうやら隣地の建築工事の影響らしいが、急速に進む都市…

「終わりの感覚」ジュリアン・バーンズ著

小説を読み始めるとき、近頃は必ずと言っていいくらい作者の生年や何歳のときに書いた作品かをチェックするようになっている。生まれた年が自分に近ければたいてい読んでみる。書いたときの年齢が自分に近ければ、絶対読んでみる。これはたぶん、私がいまの…

エスペラント語の辞書  母の思い出2

大学に入ったころ、私はかなり不貞腐れていた。「べつに大学など行きたくもないが、これが家を離れるいちばん簡単な道だ」などと、いま思えば鼻つまみの生意気な捨て台詞を吐いて東京へ出て行ったのではなかったか。 そんなふうに始まった大学生活だったが、…

海   母の思い出1

山国信州では、小中学校の夏休みは4週間しかなかった。 それでも強い太陽の光の下で、真夏の暑さは充分に堪能した。だがなぜだろうか、夏の思い出にはカンカン照りの日差しに隈取られた、そこはかとない悲しみがまとわりついている感じもする。 子供たちは…

パソコンが壊れた

すっかり日常のツールになってしまっているパソコン。いちいち意識せずに便利さを享受しているせいで、いざ機能しなくなったときの気分もまた独特だ。なんだか無性に腹が立つ。怒りをぶつける対象が不明のまま腹立ちだけが増幅していく。だいたい、壊れた理…

幹事疲れ

高校を卒業してからもう55年もたつ。 今年も同級会をやることになって、初めて幹事を引き受けた。3年ほど前までは地元を離れて東京周辺で仕事をしていて突発的な用事がしょっちゅうあったので、幹事などはしり込みしていた。同級生も、忙しいだろうからとそ…

風邪と夢

軽い風邪をひいたようで、朝起きるとき喉がざらつき微かな頭痛がする。それで数日のあいだ用心して、朝晩念入りにうがいをし、時折風邪薬を飲んだりした。どうやら発熱にはいたらずにやり過ごしたが、思えば昨年もこの時期に風邪をひいて、熱のために8日間…

アカシヤが倒れた

3日ほど前、晴天続きで畑が悲鳴を上げていたところへ、やっと雨が降った。夜半から夜明けにかけてかなりの雨が降るとの予想だったから、これで畑の作物も生き返ると胸をなでおろした。 朝起きるとまだ雨はしとしとと降り続いていて、庭の草木も生き生きと美…

畑のよろこび

今年の畑はどうしようか。キウリは作らないことにしよう。うちではいつもちょっとみじめなものしかできないし、歩いて10分ほどの駅の無人販売で、毎朝持ち込まれるおいしいキウリが山ほど手に入る。 ナスもやめておこうか。3年ほど前に水ナスというのがとて…

ユリノキを返せ!

花見が終わり、木々の若緑がまぶしく萌え出る季節になった。周囲の緑が日に日に増えて窓の外を見ても、山を見ても、地面を見ても、そして鏡の中までが緑色になっていく。いつもなら心躍る時期のはずなのだが、今年は気が沈みがちだ。というのもこんなことが…

アニータ・ブルックナー著『嘘』

アニータ・ブルックナー著『嘘』を読んだ。 あれ、この人、こんなに面白い作品を書く人だったかしら。前にちらっと読んだのがいつのことなのか覚えてはいないが、あのときは読み取れなかったのかなあ。 主人公はロンドンに住むアナ。中年を過ぎた独り身の女…

友の死

数日前、友人のkさんが1年余り前に亡くなっていたことを知った。享年65歳。勤務先で最後の1年の仕事を始めようとしていた矢先の4月に病が見つかり、3か月ほどの闘病ののちに亡くなったようだ。 知らせてくれたのはkさんと共通の友人のLさん。いま81歳か82…

狂うひと 「死の棘」の妻・島尾ミホ

また分厚い本に手を出した。『狂うひと』(梯久美子著 666頁)。途中でやめときゃよかったとは思わなかったが、しかし、、、。 著者ははじめは島尾ミホの半生を本にまとめようとしたが、途中で取材を断られてしまったという。しかしミホの死後に、残された膨…

『忘れられた詩人の伝記』を読んで  家族ってなんだろう

読み終えた分厚い本がある。『忘れられた詩人の伝記 父・大木惇夫の軌跡』(宮田毬栄著 2015年 480頁2段組み)だ。数日間、食事と睡眠以外の時間をほとんど費やして読みふけった。なにがそんなに面白かったのだろう。 高校時代に詩を読みあさったこ…

サツマイモ収穫

昨日と一昨日、サツマイモを収穫した。今年で3回目だが、やっとサツマイモの生り方がわかった気がした。一回目は4年前だったか、福島原発事故の影響がいちいち心配だったころだ。根菜は地中の放射性物質を吸収しやすいと聞いていたので、市役所の計測器で…

野菜情報

午前中、原稿を書こうとしているとチャイムが鳴った。机上のアイホンのボタンを押すと「××です」と、名前が切れた応答が聞こえた。だが声の様子から親しい友達だと推測できたので、階段を駆け下りて玄関のドアを開けた。杉田さんだった。 大分の親戚から送っ…

キビを収穫

キビの穂を厚めのビニール袋に入れて、ゴムのハンマーで叩く。 叩きながら、用途も分からないままだったが、このゴムのハンマーを買っておいてよかったと、知らず知らず口元が緩む。あれはこの人口4万足らずの小さい町に引っ越した年のことではなかったか。…