アカシヤが倒れた

 

3日ほど前、晴天続きで畑が悲鳴を上げていたところへ、やっと雨が降った。夜半から夜明けにかけてかなりの雨が降るとの予想だったから、これで畑の作物も生き返ると胸をなでおろした。

 

朝起きるとまだ雨はしとしとと降り続いていて、庭の草木も生き生きと美しくなっていた。もっと降れもっと降れと祈りながら朝ご飯を済ませた。いつものように新聞を取りに行った夫が、「大変だ」と言いながら戻ってきた。「門のそばの木が倒れている、道路をふさいでしまっている」などと言うが、木の名前を言わないので状況がつかめない。

 

とにかく傘をさして門まで出てみると、ほんとうに大変なことになっていた。いまをさかりにびっしりと白い花をつけたアカシヤが、根元からばったりと倒れている。どうやら花に雨水がたまってその重さに耐えられなかったらしい。幹の途中がフェンスによりかかり、斜めになった大きい樹木が白い花の房をゆさゆさと揺らしながら道路一面をおおってしまっている。

 

幸い我が家は住宅街のはずれにあり、交通量は少ないうえに簡単に迂回できる道路もある。だがどうしてもここを通りたい車も無いわけではないから、とにかく道路の半分だけでも通れるようにしなければならない。鋸を出して、自分で切れそうな枝を切り落とす一方で、手に負えそうにない太い幹を切ってくれそうな人を思い浮かべた。

 

桜田さんに頼もう。市役所関係の仕事で週に4日ほどは出勤しているようだが、この時間ならまだ家にいるだろう。3年ほど前に前代未聞の大雪に見舞われたときに、門から玄関までの雪かきを請け負ってくれた縁で、その後も何回か手に負えない庭仕事などを頼んでいる。

 

電話をして状況を説明すると、早朝の電話にべつに驚いた風もなく、桜田さんはすぐに軽トラックで駆けつけてくれた。そして手早くフェンスから飛び出している太い枝を切り落とし、軽トラックの荷台に積んで持ち去ってくれるという。フェンスのなかに斜めに倒れている幹は、数日中に片づけるからと言うと、雨の中をさっと走り去った。

 

それにしても我が夫のなんと頼りないことか。雨に濡れながら動き回る桜田さんと私の傍らで、この非常事態だというのに片手で傘をさしたまま、形だけ片手に鋸を持ってうろうろするのみだ。猫の手にも何もなりはしない。しっかりしてよ、この歳になってつれあいに愛想をつかすようなことになったら、おたがい面倒くさいよ。そう心中でつぶやきながら、さっさと家のなかへ消えた後ろ姿に舌打ちしたい思いで道具などの後始末をした。