伏兵あらわる

 


有機農法の講演会を聞いてから、私は異様なほどよく働いた。早朝2時間余りの畑仕事。小梅を2キロ漬けた。1キロは塩と砂糖を使って、もう1キロは塩だけで。塩は少なめにしたが順調に梅酢が梅を覆ったので、紫蘇を入れて暗い場所にしまい込んだ。そうだ醤油麹と塩麹も作った。煮干しをコーヒーミルでくだいて粉末にして、味噌汁とともに煮干しの骨まで食べることにした。などなど。みな、有機農法の講演会でさかんに勧められた食生活に近づくための工夫だ。


ところが、早朝の畑仕事が佳境に入りつつあった3日目に、思わぬ伏兵があらわれた。畑から戻って朝食を食べているとき、左のこめかみを虫に刺されているのに気づいた。10日ほど前には右こめかみを刺されていて、それは1週間ほどで腫れが引いた。だからこんどもそのはずであった。午後はヨガ教室に行き、ほどよく疲れて早めに就寝。

 

ところが翌日早朝に目覚めると、なんだか変だ。左目が開かない。鏡を見て驚いた。左こめかみの腫れが左目周辺一帯にまでおよび、左瞼が腫れ上がって目をふさいでいる。仕方なく医者に行って、アレルギー症状を抑える飲み薬と、虫刺されやかぶれに効くという軟膏をもらってきた。これで2,3日ようすを見て、腫れがひどくなりそうなら週明けまで持ち越さずにもう一度来院するようにとのこと。もしかすると私が思っているよりも重症なのだろうか。


あーあ、私の人生って、なんだかいつもこんなふうだったような気がする。おもしろい、と飛びついてたちまち夢中になる。すると冷や水を浴びせられる。けれど、それでも続けてきたことがいまとなればいくつもある。それにしても今回は、冷や水ぶっかけられるのが早すぎはしないか。いったいどうなることだろう。


目下の対策は、虫よけの薬効を発散する腕時計タイプの器具を、必ずつけること。早朝は肌寒いほどだから虫も出ないだろうと侮ったのがよくなかった。そして私は嫌いなのだが、登山者などがよく使うというスプレータイプの防虫剤も、必要とあれば併用すること。これから暑くなるから虫刺され対策は、いっそう重要になるはずだ。


そうやって、私が心にひそかに描いている我が畑の図を、やはり少しでも実現に近づけたい。雑草が地面を青々と覆っているのに、おいしい野菜が獲れるという、あれだ。しかし焦るのはやめよう。まずは瞼の腫れが引くのを待たなければ。だいたいこれでは、見たい映画も見に行けないではないか。たしか「ロンドン、人生はじめます」(ジョエル・ホプキンス監督)の上映が、相生座ロキシーで今日までだったはずなのだ。あれは見たかったのだが。