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そのださん      女ともだちー1

 

 

 

80歳になりました

と、そのださんからメールが来た

70代の最後の年だった去年、引っ越しました

人生の最後はひとりで暮らしたい

 

 

そのださんらしいなあ

昔からずっと、いつも肩をいからせていた

 

 

歳をとるにしたがって、ありがとう、と言われなくなる

ありがとうと言われると元気が出るから

ひと月に一回、お年寄り向けの食事会を開いています

 

 

そのださんはきりりと三角巾をかぶり

額に汗をにじませて、手際よく料理をしているのだろう

助っ人はいるのかしら

 

 

それに一週間に一回

成城学園前のあるお宅にうかがって

夕飯のごちそうづくりを引き受けています

 

 

私よりちょうど10歳うえのそのださん

進駐軍の軍人の家で、メイドをしたことがあると言っていた

でもあの料理の腕は、その程度のものじゃない

しょっちゅう飲んだくれていた元亭主にも

文句言いつつせっせとごちそうをつくったのだろうな

そのださんのことだから

 

 

ひとり暮らしを目指して十年以上も公営住宅の申し込みを続けたけど

どうしても当たらないので

娘たちの住むマンションの一階上に引っ越しました

 

 

よかった、たったひとりじゃないのね、そのださん

いまどきらしく、ふたりの娘さんはどうやら、いまも結婚していない

それはうちも同じ

それを嘆きもしないのも、私と同じ

 

ここは家賃が高いから

貯金が尽きるのが先か、私の命が尽きるのが先か

人生最後までスリリングです

遊びにいらっしゃいませんか

 

 

行かないよ、私は

もう25年も前

街角でばったりそのださんに会った

仕事で一年間家を空ける、と私が話したら

そのださんは、私の夫の名前を親しげに口にして

○○さん盗っちゃおうかな、と言ったよね

 

 

私は2日後には旅立つことになってて

駅前商店街でこまごました買い物に追われていた

あのときのそのださんの顔、本気だったよ

それで、どうなったの? 

それも知らずに私は夫とは結局別れてしまった

でもそのださん、ああいうこと言うもんじゃないよ 

やっぱり私、いまでもうらんでいる