瞽女 桜 そして癌   

4月の10日を過ぎたころ、上越市高田へ出かけた。ここには瞽女(ごぜ)ミュージアムというのがあり、前から行きたいと思っていた。だが開館するのは土日だけとあって時間が取れずにいたのだ。 瞽女というのは知られているように、盲目の旅芸人だ。盲人の身で…

江文也を巡る思い出  1.「ブンちゃんのパート」の謎

*その1「ブンちゃんのパート」の謎 昔のことを調べていると、時折奇跡のようなことが起きる。そこからうまく知りたい事にたどり着ける場合もあれば、またすぐ行き止まってしまうこともあるが。数年前にも面白いことがあった。 江文也(こう・ぶんや)という…

テレビのリモコンがない!

つい先日、テレビのリモコンが見当たらなくなった。 テレビはあまり見ないが、それでもニュースの時間だと気づけばスイッチを入れて、気になっている出来事のその後を見届けようとしたりする。リモコンの決まった置き場はないが、テレビがある部屋の二つのテ…

映画「福田村事件」への疑問  静子とは何者か?

森達也監督の「福田村事件」が話題を呼んでいる。 1923年に起きた関東大震災から100年目の今年、震災の混乱の中で起きた朝鮮人虐殺問題に、日本はまだきちんと向き合えていない。そんななかで森監督はこの作品で、虐殺に加担してしまった普通の市民を描こう…

80歳の日々

もう少しで私は80歳になる。そう気づいたら急に気分が変わった。死が近づいてきた、という実感がわいてきたのだ。生きる時間が短いのを悔やむ気分、やりたいことがまだたくさんあるのに、と焦る気分。いろんな気分がないまぜになっている。 死、ということを…

遺失物管理所(ジークフリード・レンツ著) 届けられたさまざまな忘れ物 それらが紡ぐ物語

近ごろ小説を読む機会が減ったような気がする。理由のひとつは新型コロナウィルスの感染拡大に伴って、新たに知らなければならないことが増えたことだ。この感染症からどうやって身を守るか、これによって社会はどう変化していくか。 とりわけ、ほとんど信用…

『暗いブティック通り』    私とは、いったい誰なのか?

パトリック・モディアノ著『暗いブティック通り』のことを、最近しきりに考えていた。この本を私は、自分の本棚のお気に入りコーナーに入れていた。10年ほど前にこのコーナーをつくり、老人になって終日家にいるようにでもなったら気の向くままに手に取って…

映画『馬三家からの手紙』への疑問   ドキュメンタリー制作者の矜持とは?

『馬三家からの手紙』というドキュメンタリー映画がある。 馬三家というのは、中国の馬三家労働教養所のことだ。思想犯が捕らわれて過酷な拷問を受けつつ取り調べられ、強制労働に従事している。映画の監督およびプロデュースはカナダ在住のレオン・リー、20…

ペンギンの憂鬱   新型コロナウィルスの日々

新型コロナウィルスのことを考えるのは、もううんざりだ。しばらく考えないでいたい。ウィルス感染の拡大よりももっと腹立たしいのが、政府の対応だ。政府は場当たり的な政策を打ち出すだけで、決定までのプロセスや責任の所在を明らかにしない。誰も政府を…

同級生を訪ねる    新型コロナウィルスの日々

2020年7月20日、東京では連日新規のコロナウィルス感染者が200人を超え、大阪、名古屋、福岡など都市部の感染者はすべて増加傾向。ピークと言われた4月の感染者数を超えるのは明らかになりつつある。それだけでも気が重いが、政府の無策ぶりがそれに追い打ち…

ついに小諸でコロナ患者発生   新型コロナウィルスの日々

2020年7月21日、信濃毎日新聞が小諸市でコロナ患者が発生したことを報じた。人口約4万、浅間山麓にあるのどかなこの町でもついに、という感じだ。感染者は20代男性、長野銀行小諸支店勤務で外勤だという。濃厚接触者は家族、同僚2人、外勤の訪問先2人とのこ…

『ストーナー』を読む   新型コロナウィルスの日々

2020年7月13日。4,5日前から東京では感染者が連日200人を超えている。昨夜遅く見たニュースでは、家庭内感染で生後2か月の乳児が感染し、幼稚園や保育園でも集団感染が発生しているという。この近くでも軽井沢で1人感染者が出た。30代男性で東京と軽井沢に…

運転をやめさせる  新型コロナウィルスの日々

2020年6月29日。梅雨の合間の貴重な晴天。明日からはまた雨が続くとのこと。散歩したり窓から眺めたりと青空を楽しんだが、ひどく蒸し暑い日でもあった。この日、世界で新型コロナウィルス感染者が1000万人を超え、死者は50万人を超えたという。驚くべき数字…

プレドニゾロンの怪  新型コロナウィルスの日々

新型コロナウィルスの流行は、私たちに思わぬ経験をさせ、思わぬものを見せてくれる。たとえば新聞やテレビの報道によれば、クリニックや病院が思わぬ経営危機に見舞われているという。患者が激減しているのだそうだ。コロナに感染するのを恐れて受診を控え…

梅雨寒  新型コロナウィルスの日々

今日は6月21日日曜日。1週間のニュースをまとめて解説したり議論したりするテレビ番組を見ていたら、新型コロナウィルスのことは最後の方で数字の情報だけが知らされた。現在世界の感染者は873万人。一番多いのがアメリカで224万人、次がブラジルで103万人だ…

新型コロナウィルス  4.ペンキ屋さん

2020年5月13日、世界の新型コロナウィルス感染者数は、とっくに400万人を超えている。最近はもう、関心があまり向かなくなった。というよりコロナ慣れしてしまったと言うべきか。けれども、感染したら死ぬぞという恐怖はいつもある。こういう心持で暮らすの…

新型コロナウィルス  3、小諸スミレ

2020年4月27日、世界の新型コロナウィルス感染者は300万人に達したとニュースは伝えている。 2月の終わりごろ、私が通っているヨガ教室で今後教室を続けられるかどうか、という話し合いがあった。そのころ長野県では松本保健所管内で1名の感染者が出た、とい…

新型コロナウィルス 2.地震とピータン

2020年4月20日月曜日早暁。なんとなく目が覚めて、この日にかぎってなぜか枕元に置いていたスマホに手を伸ばし時間を確かめた。4時23分だった。もうひと眠りできるなと思うより早く、そこにあったフェイスブックに投稿された中国語の文章が目に飛び込んだ。 …

新型コロナウィルス 1.ユリノキ

2020年4月16日、テレビのニュースが、新型コロナウィルス感染者が世界で200万人を超えたと伝えた。この一週間で倍に増えたというから恐ろしいことだ。 世界の感染者の4分の1が、アメリカで発生している。いま、アメリカは感染者も死者も世界で一番多い国に…

「母と娘はなぜこじれるのか」斉藤環 対談集

斉藤環は精神科医だが、母娘問題は特殊だと痛感しているという。父息子、母息子、父娘などとは全く違う難しさがあるというのだ。彼はこの問題に関する著書を出したこともあるが、それでもなお謎の部分があるという。今回はそれを解き明かそうと、女性7人とこ…

映画『アラバマ物語』 

新型コロナウィルス感染がひろがっている。いまや感染の中心はヨーロッパだ。全世界で感染者は40万人。WHOはパンデミックを宣言し、ついでパンデミック加速中の警告を発した。高齢者は感染したら重症になりやすいということなので、私も用心して家にいる時間…

バーバラ・ピムという作家

バーバラ・ピム著「よくできた女(ひと)」「秋の四重奏」 バーバラ・ピムという作家を、私は知らなかった。 図書館でたまたま目にとまり読んでみたのだが、出会えてよかったとの思いが沸き上がる。普通の人の静かな日常を静かに語る。それだけだが静かな感…

「我らが少女A」高村薫著 を読む

高村薫が、重厚な長編を書く作家であることは知っている。数十年前になるだろうが「レディージョーカー」が大きい話題になったとき、いくつかの著書を手にしてみたが、読み切ることができなかった。いまにして理由を考えてみると、あのころは仕事が忙しくて…

『聖なるズー』  濱野ちひろ著

著者は、セクシュアリティーの研究をしている。 セクシュアリティーとは「セックスに関するあらゆること」を指す言葉だという。あらゆること、とはなにか。セックスそのもの、性的指向、性的嗜好、生殖、生殖の管理、妊娠、中絶、さらに、性にまつわる教育・…

ぼくはお金を使わずに生きることにした マーク・ボイル著

著者マーク・ボイルは、1979年アイルランド生まれ。2008年11月末から1年間、イギリスのブリストル郊外でお金を使わずに生活した。その記録がこの本だ。 マーク・ボイルは、アイルランドの大学で経済学と経営学を学び、卒業したら手っ取り早くお金を稼ごうと…

「さびしいね」と言えますか

水曜日の午後にはヨガ教室に行く。いままでずっと私は引っ越すたびにヨガ教室を探して、もうかれこれ30年以上も週1回ぐらいのペースではあるがヨガを続けている。最近になって思うのは、ヨガ教室というのはとくべつな場所だということだ。 1時間半ほどのあ…

『四人の交差点』(トンミ・キンヌネン著)  自分の人生を生き切る人たち

家族というものに対して、私は不可思議な両極端の感情を持ち続けている。 自分自身は家族を持つことを頑固に拒否してきて、いまそれはある程度は思いどおりにいったかに見え、心地よく日々を過ごしている。そのくせふと気づくと、かつて自分が属していた家族…

村の時間 町の時間

『田んぼ(PAYO)』という芝居を見に行ってきた。 演じる人たちに興味がわいたからだ。彼らは、フィリピン・ルソン島の北部山岳地帯に住む少数民族イフガオ族の若者たち。そのあたりにはさまざまな少数民族が暮らしていて、世界文化遺産・世界農業遺産などに…

夏のあと始末

日々、庭や畑の草刈りに追われている。と言っても、私の場合は雑草をべつに嫌っているわけではないので、切迫感はないのが救いだ。皆が毛嫌いする猫じゃらしやアカマンマの草藪も、しげしげと眺めれば可愛らしい穂が一斉に風にそよぎ、アカマンマの飾り気の…

クコ(枸杞)を摘む

畑の雑草が丈高く茂ってしまったので、朝から畑へ出かけた。この夏は、あまりの暑さに畑仕事はあきらめたような格好だった。だから畑では雑草の穂がゆらゆらと揺れていて、その陰に野菜が隠れているというありさまだ。 それでも野菜は実るのだ。もちろん手を…